遅刻した日に行った残業の賃金の取扱い
医療機関でみられる人事労務Q&A
Q先日、公共交通機関に遅れが生じ、ある職員が遅刻して出勤してきました。そのため、その日は業務が立て込み、結果的に残業を行うこととなりました。このようなときの賃金は、どのように取り扱えばよいのでしょうか。
A遅刻をした日に残業を行った場合、労働しなかった時間分については、終業時刻を繰り下げて計算することが認められており、実労働時間が法定労働時間である8時間を超えた部分について割増賃金の支払いが求められます。
詳細解説
職員の遅刻については、たとえそれが職員本人に責任がないものであったとしても、労働しなかった分の賃金を支払う必要はありません。これがいわゆるノーワーク・ノーペイの原則と呼ばれるものです。
一方、問題になるのが、遅刻をしたその日に残業を行った場合の残業の取扱いです。この点については、行政通達で以下のように示されています。
法に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について割増賃金の支払を要するのは、実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。従って、例えば労働者が遅刻をした場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算して法定労働時間を超えないときは、割増賃金支払の必要はない。(昭和29年12月1日基収第6143号より抜粋)
具体的には、所定労働時間が8 時間である医院で30分遅刻した場合、終業時刻を通常の時刻から30分遅らせることができます。その結果、遅らせた終業時刻内の労働であれば割増賃金の支払いは不要であり、30分超の残業時間について割増賃金を支給することとなります。
ただし、就業規則に、終業時刻を超えて勤務した時間に対して割増賃金を支払う定めがされている場合については、実労働時間が8時間に満たなくとも割増賃金の支給が必要となるため注意が必要です。
また、公共交通機関の遅延など医院がその遅刻はやむを得ないと判断する場合は、始業時刻までに連絡をする、遅延証明書を提出するなどの一定の手続を経ることで、遅刻した時間分の賃金控除はしないとしている取扱いも見られます。遅刻をしたときには賃金がどのような取扱いとなるのか、また職員はどのような連絡、手続を経るべきなのかをあらかじめ明らかにし、周知しておくことが望まれます。