就業規則を周知しない場合のリスクとは・・・
医療機関でみられる人事労務Q&A
Q 当院では就業規則を策定していますが、事務長の机の引き出しの中にしまってあるため、最近入職をした職員からおかしいのではないかと指摘を受けました。職員に知られたくないことも多いため、できれば見せたくありませんが、問題がありますか?
A 就業規則については、労働基準法によって周知義務が課せられており、職員への未周知は、就業規則自体の有効性を失わせる可能性があります。インターネットで容易に情報が入る時代でもあり、明確なルールとして周知して運用することが組織風土面においても望ましいでしょう。
詳細解説
就業規則は、職場における統一的なルールを定めたものであり、常時10人以上の職員を使用する事業場においては作成し、管轄の労働基準監督署に届け出をしなければなりません(労働基準法第89条)。
しかし、就業規則には、休日や休暇、賃金等について必ず明記しなければなりませんので、職員が就業規則を見て年次有給休暇の取得の申し出を頻繁にしてくること等を危惧し、周知をしていない医療機関が少なくありません。
いまやインターネットによって様々な情報が簡単に得られる時代であり、就業規則を隠し通したところで、年次有給休暇の取得の申し出等を抑えることは難しく、むしろ経営者に対して不信感を募らせてしまう可能性があるでしょう。更にはその不信感が離職へ発展してしまうことも想定されます。
一方、就業規則は職員の年次有給休暇のような権利を定めるだけのものではありません。労働裁判で有名なフジ興産事件(最高裁・平成15年10月10日判決)では『使用者が労働者を懲戒するにあたっては、あらかじめ就業規則において懲戒の種類とその事由を定めておくことが必要であり、また、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業所の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するというべきである』と判示していますので、就業規則を周知していない場合には、懲戒事由等が発生した際にその有効性が問われるリスクを抱えます。
以上のことより、労使間の良好な労使関係を保つためにも就業規則を周知することが必要です。なお、周知方法については、労働基準法第106条等において、以下のような方法を採るよう定められています。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 書面を交付すること
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
実際、就業規則を周知したところで全職員が自己の保有する権利をすべて行使するとは考え難く、職員を信じて周知し、お互いに働きやすい環境を労使双方で考えていくという姿勢に切替えていくことが望まれます。