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退職者の引き抜き行為を止めさせたい

医療機関でよくみられる人事労務Q&A

Q 先日、事業の中核を担っていた職員が退職しました。その後、その退職者が当時の部下や仲の良かった職員に声をかけて、転職先への引き抜きを企てているという噂を耳にしました。こうした引き抜き行為に対しての対策を講じたいと考えていますが、どうすればよいでしょうか?

A 退職者が元の勤務先の職員に対して行う引き抜き行為について、その方法等に悪質性がある場合には損害賠償請求も可能と考えられますが、単なる転職の勧誘に留まる場合には、違法性があると考え難いものです。退職者に連絡をしてそうした行為を控えるようにと伝えると同時に、職員が容易に引き抜かれないように処遇や組織風土の改善に取り組むことが現実的です。

詳細解説

退職をした職員がこれまで働いていた勤務先の職員に対して、転職の勧誘を行うことはよくある話です。ところが、その方法や結果によっては、事業運営に少なからず影響を与えることもあり、経営者としては看過できる問題ではありません。もっとも退職者については、既に労働契約が解消されていることから、基本的に退職者の行動を制限することは難しいというのが実情です。

しかし、大量の職員の引き抜き等、その内容が悪質なものの場合には、民法第709条の不法行為を理由とした、損害賠償請求が認められるケースもあります。実際に、過去の裁判例を紐解くと、進学塾の講師であった者が職務上入手した生徒の情報等と共に他の講師の大半を引き抜き、新たに進学塾を設立させた事例(東京学習協力会事件・東京地裁・平成2年4月17日判決)では、転職の勧誘の程度が社会的相当性を逸脱していることを理由に損害賠償請求が認められています。

とはいえ、実際に裁判を起こすというのは、地域密着で事業を展開している医療機関にとって、地域や看護師等の有資格者の間で悪評が立つ可能性も否定できないことから、なかなか難しいものです。加えて、「悪質である」「社会通念上の相当性を欠いている」という表現を用いたとしても、必ずしも医療機関側の正当性が肯定されるわけでもありません。

従って、容易に引き抜かれることがないように、現在勤務している職員に対しての賃金水準や労働条件といった処遇を改善したり、コミュニケーションのあり方を見直す等組織風土の改善を図り定着を促進させるという方法を取り入れることが現実的です。

そして、引き抜き行為を行っている退職者については、直接連絡をとり、迷惑している旨を伝え、そうした行為を止めるよう対応を行うべきです。それでも引き抜き行為を止めず、事業運営に大きな影響が出るような場合には、弁護士に相談をしながら今後の対応を考えていくべきでしょう。

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