通勤手当の不正受給への対応
医療機関でよくみられる人事労務Q&A
Q 当院では、職員に通勤距離に応じて通勤手当を支給しています。先日、当院の近くに引越しをしてきたにも関わらず、故意に届出を行わず、通勤手当を不正受給している職員がいることが発覚しました。過支給分の返還請求など、どのように対応をすればよいのでしょうか?
A 支給基準に該当しないにもかかわらず支給された手当の過支給分については、民法の定めにもとづき、不当利得返還請求を行うことができます。悪質性の程度を確認し、適正な指導や懲戒処分の検討も行うと同時に、今後の再発防止策を考えていくとよいでしょう。
詳細解説
通勤手当のみならず、住宅手当や家族手当等の諸手当については、通常、公平性の観点から賃金規程などにおいて、支給基準を明確にして運用を行います。ところが、その後の生活環境の変化によって、支給基準を満たさなくなったにも関わらずその旨を届け出ず、不正に手当を受給し続けているケースが稀に発生することがあります。
このような不正受給に関しては、そもそもその受給に悪質性があるのか否かに関わらず、本来受給する権利がなかったものであることから、民法上の不当利得という考え方が適用でき、同法第703条によって最大過去10年に遡及して不当利得の返還請求をすることができます。
返還の方法については、本人との話し合いにより分割または一括で返還をさせることになりますが、本人の生活面への配慮も必要であり、また、返還の途中で退職をした場合のことを考えて、返還方法等を定めた文書を交わしておくとよいでしょう。
また、仮に悪質性がみられる場合には、その程度にもよりますが、懲戒処分の検討も必要でしょう。多くの場合は、悪意があるというよりも、引越し等によって精神的な余裕を失い、単純に届出を失念していただけであるということが考えられますので、そうした点は配慮する必要があります。
もっとも、こうした事態が生じたということについて、本当に本人だけに問題があるのかという点も検討していかなければなりません。例えば、相当の年月にわたって不正受給をしていたにも関わらず、年末調整その他の関係資料によって事業所側において誤りであるということを把握できなかったのか、という落ち度もケースによっては想定されますので、そうした事業所側の過失の程度も、返還額等を決定していくにあたって考慮すべきでしょう。
以上のような問題は、お互いにその意思はなくても、労使間の信頼関係を損なう可能性があるものです。従って、定期的な監査の実施はもちろんのこと、不正受給があればその後に支給基準を満たしても、手当の支給を一切しない場合がある、といったルールを定めるなど、対策も同時に行っておきたいところです。