介護業務に従事する職員の腰痛は労災!?
医療機関でよくみられる人事労務トラブル実例Q&A
Q 定年間近の介護職の職員が、腰痛の悪化を理由に1ヶ月ほど静養のため、仕事を休むことになりました。その職員の休業を知った他の職員から、腰痛悪化に伴う休業は日頃の介護業務によるものなので、労災ではないかといった話があがりました。このような場合に労災認定はされるのでしょうか?
A 業務を遂行する中で、高齢者を車いすから抱きかかえた際にギックリ腰になったといったような直接的な原因があれば労災認定がされると思われますが、日々の業務の負荷が蓄積したことによる腰痛は、業務との関連性の立証が困難であり、かつ加齢を伴う場合には医学的検証も必要なため、労災認定がされるのは難しいのではないかと考えられます。
詳細解説
○「業務起因性」と「業務遂行性」
通常、職員が業務上、負傷したり、病気になった際には、労働者災害補償保険法(以下、「労災保険」といいます)から給付があります。この場合、労災認定がされるか否かの判断は、労働基準監督署によって行われますが、その際には「業務起因性」と「業務遂行性」の有無が判断材料となります。「業務起因性」とは、その負傷や病気の発生と業務に因果関係があるか否か、「業務遂行性」とは、労働契約に基づき使用者の支配下に置かれて業務をしていた際に発症したものか否かという点によって判断がなされるというもので、双方の要件を満たせば労災認定がされ、労災保険から給付を受けることができます。
○業務上腰痛の認定基準
腰痛については、原因が業務上によるものなのか、あるいはプライベートによるものなのか、更には加齢に伴うものなのか、その判断が難しいことから、厚生労働省より通達「業務上腰痛の認定基準等について(昭和51年10月16日 基発第750号)」が出され、認定にあたっての基準が示されています。この通達では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」「災害性の原因によらない腰痛」
の2種類に区分しています。「災害性の原因による腰痛」とは、例えば、業務中に高齢者を車いすから抱きかかえようとしたところ、その衝撃でギックリ腰になり、腰を痛めてしまったというように業務を進める中ではっきりとした原因があって腰痛になった場合をいいます。業務との因果関係が明白であるため、業務上であるとして労災認定がされます。
一方で、「災害性の原因によらない腰痛」とは、前述したような明確な原因があるわけではなく、日々の業務による腰への負荷が積み重なって発症するといったような場合をいいます。このような場合に労災認定がされるのは、下表の場合に限られますので、労災認定がされる可能性は高くないと考えざるを得ません。
「災害性の原因によらない腰痛」が労災認定される場合 |
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(1) 腰への負荷が強い業務に従事し、比較的短期間(約3ヶ月以上)のうちに筋肉疲労が蓄積していた場合 (2) 相当長期間(約10年以上)に亘り従事したことで骨が変化したことが原因となった場合 |