年次有給休暇を取得した職員の精勤手当を減額したい
医療機関でよくみられる人事労務トラブル実例Q&A
Q 周囲への影響も考えずに好き勝手に年次有給休暇を取得している職員に対して、精勤手当を減額したところ、その職員から「おかしいのではないか」と苦情を受けました。何か問題があるのでしょうか?
A 職員が年次有給休暇を取得したことにより、手当を減額するといった不利益な取扱いをすることは労働基準法上禁じられており、問題があります。仮に年次有給休暇を取得することによって一緒に働いている職員が困惑しているのであれば、そうした事実を本人に伝え、希望する取得日を変更してもらうといった措置の検討が必要です。
詳細解説
職員の無遅刻・無欠勤を奨励するために、精勤手当や皆勤手当といった名称で毎月一定額の手当を支給する医療機関は少なくありません。一般的には月額数千円から1万円程度の金額を支払っている例が多く、中には年次有給休暇(以下、「年休」という)を取得したことによって、通常の業務を遂行していないという理由で、こうした手当を減額したり、不支給とする取扱いをしている医療機関があります。しかし、この取扱いは法的に問題があります。具体的には労働基準法附則第136 条で、「使用者は、(中略)有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定められており、今回のような不利益な取扱いを禁じているのです。なお、ここでいう不利益な取扱いとは、賞与の減額や年休取得日を欠勤として扱うこと等をいい、実際に様々な労働裁判例を紐解いても、そうした扱いに違法性があることが認められています(エス・ウント・エー事件(最三小判・平4.2.18 判決)等)。
もっとも、現実的に好き勝手に年休を取得することによってまわりの職員に多大な迷惑をかけているのであれば、まずはそうした事実を本人に伝え、今後は配慮の上、年休を取得するように意識を変えてもらう必要があります。そうした対策を講じなければ、本人が職場内で孤立をしてしまう可能性が高く、組織風土悪化の要因にもなります。この場合、自分たちの仕事は、患者があって成り立っており、多忙な時期に周囲に配慮することなく年休を取得すれば、組織全体のサービスや質の低下を招く恐れがある旨を伝えることが効果的ではないかと思います。
一方で、職場の混乱防止のために年休の取得そのものを禁じるケースも想定されますが、年休は心身のリフレッシュのために労働基準法上職員に認められている権利であることから、その取得を禁じること自体が違法となり、認められていません。ただし、事業の運営において多大な混乱が生じる可能性がある場合(例えば、職場にインフルエンザが蔓延し多くの職員が欠勤する中で、本人からの年休取得の申請によって、勤務体制に支障をきたす場合)には、本来希望する日程の取得を認めることなく、取得時季を別の日程に変更してもらうという時季変更権が経営者側に認められています(労働基準法第39 条第5 項)。このような事業の運営において多大な混乱が生じる場 合には、日程を調整してもらうとよいでしょう。